内外ニュース懇談会 講演要約
講演
東京圏高齢化危機回避戦略から読み解く、日本のこれから
東京大学公共政策大学院客員教授
日本創成会議座長
増田 寛也 氏
2015年8月18日に開催した東京懇談会で、「東京圏高齢化危機回避戦略から読み解く、日本のこれから」と題して講演。
日本の人口減少と、仕事も人も東京に一極集中する時代が続いてきたことについて、さまざまなデータを用いて、これらの問題の現状を分析し、具体的な対策を熱く語った。
人口減少問題は静かなる有事
若年人口の急激な減少と、団塊の世代の高齢化、東京一極集中などの問題提議を行う。2008年に1億2808万人とピークを迎えた日本の総人口は、その後減少に転換し、推計では50年に9708万人(高齢化率38.8%)になる見通しだが、このまま何も手を打たなければ人口は下げ止まらず、2100年には4959万人(高齢化率41.1%)になってしまう。
さらに、団塊ジュニア世代の出産により、少し上向いていた合計特殊出生率が、14年は「1.42」と9年ぶりに低下し、出生数も100万3532人と過去最低を更新。今年はさらに低下し、「97万人ぐらいになるだろう」と見ている。
この原因として、日本人の結婚や家族への意識が変化し、晩婚・晩産の状況にあることや、約40〜60%が非嫡出子である欧米に比べ、日本の非嫡出子は2%であり、結婚しないと出生に結びつかない。
これまで国や行政は保育園の拡充や子育て支援に力を入れていたが、これからは結婚に結びつけるための働き、つまり「婚活」に力を入れていく必要があると提案している。
また、合計特殊出生率の地域差も大きく、東京都が「1.15」で最低、最高が沖縄県の「1.86」で、九州中国地方が高い傾向にある。中でも3番目に出生率の低い北海道は、「札幌に若い世代が一極集中し、さらに札幌から若い男性が東京に出ていくことが出生率の低下に結びついている」と指摘する。
東京一極集中は、世界の都市と比べると極めて異例なこと
ここ直近60年間の転入超過数の推移だが、高度経済成長期に東京圏に人が集まり、バブル経済期にも人口が積み増され、バブル崩壊後も東京圏に人口が集まっている。特に15〜29歳の若年層が大学進学や就職を期に、極端に東京に移っている。しかし、東京に転入し退職を迎えた人の一部は地元に戻るが、転入した数ほどは戻らない。
欧米の都市と比較すると、世界的に人口は大都市の郊外か、中小都市に移るというのが主流な動きなのに対し、東京とソウルだけが一極集中になっていることを指摘する。
データとともに示した人口減少、特に20〜39歳の若年女性の減少と、地方から大都市圏(特に東京圏)へ若者が集中するという2点の要因により、40年には全国896の市区町村が「消滅可能都市」に該当するという、日本創成会議のショッキングな報告は記憶に新しい。
問題は25年にかけて、東京圏は高度成長期に流入した人口が75歳以上になり急速に高齢化することである。東京圏の後期高齢者は10年間で175万人増加し、これは全国の3分の1を占める。さらに東京都では高齢者の4人に1人が高齢者単身世帯となる。
「地方ならまだ隣近所、親戚縁者による支え合いが期待できるが、都市部ではどうしても公的なケアの中で対策を考える必要がある」として、都県別の後期高齢者収容能力の乖離幅をデータで示した。それによると、現状では東京23区のマイナスを近隣県のプラスが補っているが、25年、40年の人口をベースにしてみると、東京圏の全地域で施設の大幅な不足が生じる。
「しかし、問題はむしろマンパワー不足のほう」と言う。今後、全国で約240〜280万人が必要と見込まれるマンパワーのうち、東京圏では80〜90万人(介護職員30万人、看護職員20万人)が求められるとみている。
しかし、若年層の人口減少で若い労働人口が減少するため、各産業で若い人を取り合うことが予想される。その結果、「地方も大変だが、それ以上に人が集中している東京の高齢化が、これからの大きな問題となる」と危惧している。
具体的な4つの対策
これに対し増田氏は、日本創成会議が15年6月4日に発表した4つの対策を紹介した。
1つめがICTやロボットなどを活用し、年配の人でも働ける環境を作ること。また、資格の融合化、外国人介護人材の受け入れなどの「医療介護サービスの人材依存度を引き下げる構造改革」。
2つめは老朽化した大規模団地の再生や「空き家」の有効活用などの「地域医療介護体制の整備と高齢者の集住化の一体的促進」。
3つめが「一都三県の連携・広域対応」。
4つめが移住に関心を持つ人に対する情報提供や、お試し移住支援など、若い人だけでなく全ての年代の人に対しての「東京圏からの地方移住環境の整備」だ。
さらに、昨年12月27日に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生『長期ビジョン』と『総合戦略』の全体像」についても簡単に触れ、中長期ビジョンとして、(1)2060年に1億人程度の人口を確保すること。(2)人口減少の歯止めとして出生率「1.8」を目指す。(3)東京一極集中の是正。の3点を紹介した。
最後にまとめとして
「現在の制度や法体系は、人口が増えることを前提に作られているが、すでにその前提が崩れている」として、人口減少社会に対しては、地方独自の対策をきめ細かく行うこと、「支えられる」のではなく「支え合う」高齢者になること、住宅と商店、オフィスを混在させるなどの多機能混在、地方議会の充実、データに基づく推計が重要であると提言した。
地方創生については、(1)地方での雇用の創出、(2)男女を引き合わせることから始める婚活などの支援、(3)町全体のコンパクト化、(4)民間資金を活用するなどの財源の確保、(5)集中によるメリットと分散などのメリハリをつけた東京一極集中の是正、の5つの視点を示して懇談会を結んだ。
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