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内外ニュース懇談会 講演要約

講演
日本の進路と誇りある国づくり

ジャーナリスト
国家基本問題研究所理事長 櫻井 よしこ 氏

2015年1月に開催した内外ニュース東京懇談会で、「日本の進路と誇りある国づくり」と題し、冒頭での「イスラム国」人質事件を皮切りに、戦後70年の今、国家としての在るべき姿、国民が考えるべきことを、静かな口調の中、強く熱く語った。


「真っ当な国」として再生の一歩を

 皆様こんにちは。内外ニュースの懇談会でお話する機会を賜り、本当にありがとうございます。

 きのう1月20日、イスラム国が日本人の人質2人を取り、2億ドルの金銭を要求する緊急事態が起こりました。今回の件は大変に難しい事案で、2人の日本国民の命が懸かっており、軽々にものを言うことは、心が震えるような緊張感を感じます。

 そのことを踏まえながら、私たちの国が今、何を考えなければならないかを中心に、率直にお話を申し上げたい。

 安倍総理、日本国政府、その後ろにいる私たち日本国民全員が今、直面している問題は、「戦後の日本をどうするのか」という、究極の問題に行き着くことだと思います。

 まず第1に私たちは、2人の国民の命を守らなければならない。同時に国家として原則を曲げず、まともな対処をしなければならないということです。

 安倍総理がずっと掲げてきた「戦後レジュームからの脱却」という価値観とは、戦後、わが国が陥っている国家らしからぬ体制から、抜けなければならないという決意だ。その時に私たちは、「国家とは何なのか」を考えなければいけない。

 国家を抽象概念的に言うと、国民、国土、領土・領海を守る、そして国民の価値観を守ることですが、それをどの視点でみるかが、とても必要になってくる。

戦後70年「日本をどうするのか」に直面

 私たちは戦後約70年間、日本人が心持ちを正しくすれば、すべての問題を解決する道はおのずと開けてくるかのような価値観の中にいました。憲法前文に書かれている国際社会はあろうはずがないことを知りながら、国民全般、国民を代表する政治家も、建前としてそこにとどまらなければ、選挙をはじめ、いろいろなことは為し得ない、という状況の中で過ごしてきた。

 そのようなわが国に対して今、突き付けられているのが冒頭のイスラム国からの挑戦です。2人の命を守ることは当たり前だが、その後どうするのかが一番大事で厳しいところだ。

 じゃあ、どうすればいいの。右へ行くの?左へ行くの? はっきりとは言えない。なぜ言えないのか。国家として振る舞うことが、戦後70年間なかったからではないだろうか。

 今回の相手は今までの相手とは全く違う。ならば、原理原則をしっかり持っておかなければ振り回されてしまう。安倍総理がどういう決断を下すかによって、これからの日本の国家の姿が定義されてくるだろうと思う。

 安倍総理がおっしゃったのは、真っ当な意味での国家になるということです。ならば、おのずと道は明らかで、その道の中で何ができるか。「わが国の中東への貢献は平和に徹するものだ。そのことをなぜ理解しないのか」というメッセージを必死で出す。ありとあらゆるツテを頼る。これも必死で行う。

 しかし、国家として譲れないことは譲らない原理原則をきちんとすべき時だろうと思う。この案件に日本はどう対処するのか、世界は本当に注意深くみている。

 一方、世界は、もう地殻変動を起こしている。世界の大国であるアメリカは、飛び抜けた実力を今も持ちながらも、その力を使おうとしない。オバマ大統領の内政重視、福祉国家を目指す路線、外国の紛争にはできるだけ関わりたくない路線は、次の指導者が出現しても、それほど大きく変わらないのではないかと思えてならない。

 このアメリカに対して、私たちが本当に脅威として捉えなければならないのは、「異形の大国」と私が呼ぶところの中国だ。

 中国は、昨年11月のAPECの北京での振る舞いをみると、新しい段階に入ってきたのではないかと思う。そこでは1つの明白な特長に気がつく。

 攻め手の中国と受け手のアメリカ。中国が積極攻勢をかけ、アメリカが徹頭徹尾それを受ける側に立っている。習近平主席の一番の主張は、「新型大国関係」をアメリカに公式に認めさせることだった。

 その柱の1つは、中国による世界の海の支配だ。もう1つが「核心的利益」の相互尊重。中国の言う「核心的利益」にはチベット、ウイグル、南シナ海、台湾、そして尖閣も入っている。

 オバマ大統領は、北京のさまざまな会合で「新型大国関係」を事実上受け入れていると思われる発言をしている。両国が手を結ぶ可能性がいつでもある中で、中国のこの脅威は止むことはないと思う。

 中国は今の共産党1党支配のもとで、突き進んでいくだろうと考えざるをえない。そこには妥協の余地はない。

 ならば、われわれにも妥協の余地はない。これは領土に関してもすべて同じことが言えるだろうと思う。

 こうした中で、世界は本当に速いスピードで変わっていく。日本を取り巻く諸々の問題を、一つひとつ解決していくときの日本国の姿とは、自分のことは自分で決めて責任を持つことができる、自主独立の国家の姿でなければならない。

 冒頭の人質問題については、非常に厳しい判断であるのは言うまでもないが、その厳しさに耐えて、きちんとした国家の指導者としての判断を下されるように私は望んでいる。

 そうした時に初めて日本は、真っ当な国としての、再生の一歩を踏み出すのではないかと思う。

 政治は世論と切り離して考えることはできない。世論が政治をつくるというのは過言かもしれないが、大きな要素を占めることは確かだ。この国の行方をしっかりとしたものにさせるためにも、本当に私たちが真剣に考えるべき時だと思う。


※全文は月刊『世界と日本』第1249号に収録されます。また、要約は週刊「世界と日本」2047号に掲載されます。

 

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