内外ニュース懇談会 講演要約
講演
真っ当な民主主義国家として「政軍関係」を築く
ジャーナリスト
(公財)国家基本問題研究所理事長 櫻井 よしこ 氏
内外ニュース新春東京懇談会1月例会は25日、ザ・キャピトルホテル東急で行われジャーナリストの櫻井よしこ氏が「日本の進路と誇りある国づくり」と題し、1月9日に亡くなった論壇の大御所 田久保忠衛さんとの思い出、日本を取り巻く内外の情勢、国を守ることの大切さを、幅広く提議、強く熱く語った。
言論界の「侍」田久保忠衛国基研副理事長を偲ぶ
生涯の師の田久保忠衛さんが1月9日に亡くなりました。2007年当時、安倍政権から福田政権に移るとき、田久保さんも私も大変な危機感を感じ、このままでは日本国は滅びると恐れました。私たちは有志と共に国家基本問題研究所というシンクタンクをつくりました。それ以前から田久保さんはがんを発症しておられ、都合8回も手術をされました。
本当にお具合が悪くてご自宅にいらしたとき、電話で語り合いました。「何もできずベッドに横になっている」とおっしゃった田久保さんに、私は、横になって何をしているのか聞いたのです。すると日本の国体を考えるための資料を読んで、昭和天皇がマッカーサーに人間宣言を迫られたときの逸話をもう一度思い出していると、仰る。こんなときになっても、国体をお考えになっているのは、すごいなと思いました。
12月23日、ご子息から電話があって、杏林大学病院にお見舞いに行きました。「ありがとう、頑張ってね」が、田久保さんの最期の言葉でありました。大事な人を亡くしてしまいました。
でも、これからは田久保さんの気持ちをくみ取りながら、言葉を忘れずに、日本国のために論陣を張っていきたい、そういうふうに思います。
展望が見えない日本内外の情勢
日本を取り巻く内外の情勢は、歴史上ないほど厳しい。今、アメリカでは大統領選挙の候補者選びでトランプ、バイデンしかいない。アメリカの国力は今よりも大幅に落ちていくのではないでしょうか。
中東情勢ではイスラエルのネタニヤフ首相はハマスを潰すまで止めないと言う。その間、パレスチナの人々の無残な姿が映像になって人々の感情に訴えかけます。イスラエル、アメリカへの反論の嵐をどう凌ぐかは非常に難しい状況になっている。
この様子を中国がどう見るかが一番大事。中国こそ、どの国にとっても最大の脅威です。わが国にとって、とりわけ中国の脅威は厳しい。1月13日、台湾の総統選挙の結果、民進党が過半数を取れなかった。台湾は軍事的に立場を強くし、アメリカから武器装備を自国予算で買わなければならないが、国民党の反対で通らない可能性があります。台湾情勢も展望が見えにくい。
バイデン政権が今、ウクライナ支援用の600億ドルを含んだ予算を提出していますが、共和党の反対で全然通る見込みがない。ウクライナは苦しい戦いを続けざるを得ない。アメリカと同盟関係にある日本は、ウクライナより恵まれているかもしれないが、憲法改正もできていないという意味で、非常に脆弱です。
世界の常識と乖離する日本の政軍関係
今、私たちは世界情勢の地殻変動に直面している。田久保さんは世界がどう動くかを見続けていた。そして、今のままのわが国では到底対応しきれないことを深く心配しておられた。
国の土台が経済と軍事であるのは国際社会の現実が示しているが、わが国には国家を支える経済はあっても軍事が整っていない。政治と軍が相互の考えをよく理解して、最終的に軍は政治の指示に従うのがあるべき政軍関係だ。わが国では両者間の意思疎通が全くない時代が続いた。この異常事態を修正しなければならない。 そうした問題意識に基づいて3年前、私たちは田久保さんを座長として政軍関係研究会を立ち上げ、日本の政軍関係の実態に目を開き、真っ当な民主主義国としての政軍関係を築く方途を論じました。
3年間の成果は昨年11月『「政軍関係」研究』(並木書房)として出版された。田久保さんは「いい本に仕上がった」と、大変喜んでおられた。
本の中では日本の国防体制に関する世にも珍しい事象がいくつも紹介されています。
例えば、自衛隊のトップである統合幕僚長を4年余り務めた河野克俊氏は、自身の上司であり最高指揮官の安倍晋三総理と一度も一対一で会ったことがなかったという事実です。こんなことが起きるのは、自衛隊を忌避する感情がいまだに強いからか、それとも防衛省内に軍人を独走させてはならないという偏見を持ったいわゆる背広組がいるからか。いずれにしても異常です。中国の脅威が増大するいま、政治と軍の二人のリーダーが胸襟を開いて信頼関係を築くことが、いざ有事のときに欠かせません。
安倍晋三さんが亡くなられ、日本国は求心力を失い、どの方向に進めばいいかわからなくなっている。今、非常に日本が脆弱なのは、まとめる人がいないことに加え、敗戦後に歪められてしまった国家のあり方を改められなかったためです。
軍事忌避の精神を、どのようにして、平和を真に担保する道へと導くのか、自衛隊をまともな国軍として位置づけ、その自衛隊を正しく統制できる政治を創り上げていくのか。田久保さんは一生かけて、日本国が自主独立の精神に目覚めるように説いた。
日本は危機にどう対峙すべきか
令和4年12月に閣議決定し安全保障戦略をはじめとした三文書を作り、日本国が有事にどうするかという大体の手順を決めた。重要影響事態、存立危機事態、武力攻撃事態の三つが想定される。
台湾有事の際、実際の状況に当てはめられると、どうなるか、河野克俊さんが解説した。中国からミサイルが台湾海峡や尖閣に飛んできたとき、三つの事態のどこに該当するか。法律的にわが国はどういう状況にあるか。河野さんがおっしゃるには、おそらくNSC、国家安全保障会議が決めるのでしょう。首相と外相と蔵相と防衛相。事態認定に四苦八苦する間もミサイルがくる。政治家は判断できない。軍事を知らない内閣法制局長官を呼んでも、ろくな事はない。頼る人がいなくて自衛隊、お願いしますでは、もう遅すぎる。
政治と軍の関係、何もできていないのが今の日本国の現状です。国が危機にあるとき、国民皆で国を守らなければならない。
国を守ることは地域を守り、家族を守ることだ。国と国民は一体だという価値観に戻る必要がある。
※講演動画は「内外ニュースチャンネル」でご覧いただけます。(会員専用)
動画 櫻井氏202401(会員専用) - 内外ニュースチャンネル (naigainews.jp)
講演要約は週刊「世界と日本」NO.2264・2265号に掲載されます。
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