内外ニュース懇談会 講演要約
講演
「これからの日本の政治の責任」-私はこう進める-
国務大臣 国家公安委員会委員長
行政改革担当、国家公務員制度担当 内閣府特命担当大臣
衆議院議員
河野 太郎 氏
2016年5月13日、内外ニュース東京懇談会5月定例会は、ザ・キャピトルホテル東急で行われた。今回の講師は4月に発生した熊本地震で、防災担当大臣として、内閣府のオペレーションルームで指揮を執っている自民党・衆議院の河野太郎氏が、「今後起こりうる大規模自然災害から国をどう守り、政治として何をすべきか」について熱く語った。
戦後日本の自然災害の3つの転換点
1か月前に、熊本で地震が起き、私はずっと地震関連のオペレーションをしていたので、今日は防災という視点から、これからの日本をどうするのか、政治は何をしなければいけないのかについて話をさせていただこうと思う。
まず、戦後の日本の自然災害を振り返ると、大きく転換点が3つある。1つ目が昭和34年の伊勢湾台風で、この時は防災に関する国の統一的な制度や体制がなかった。その反省から災害対策基本法を作り、中央防災会議を設置し、防災基本計画を作った。私はこれを「防災1.0」と呼んでいる。
2つ目が平成7年の阪神・淡路大震災で、この時は政府の危機管理体制がなっていなかったのではないか、初期対応がまずかったのではないかという反省から、官邸に緊急参集チームを設置し、東京都内で震度5強以上の地震、または全国で震度6弱以上の地震が起きると、このチームの人間は、30分以内に首相官邸の地下にあるオペレーションルームに参集することが決定された。
また、耐震化が不十分な建物の倒壊が多かった反省から、建築物の耐震改修促進法を作った。さらに、大勢の人が被災をし、生活再建などが困難だったために、被災者生活再建支援法を作った。この阪神・淡路大震災が「防災2.0」である。
3つ目が、平成23年の東日本大震災で、これは自然災害と原子力災害という2つの災害が同時に起きた複合災害である。そしてこれまでの最大級を想定し、完全に災害をブロックするという考えから、最大級の災害が起きた場合、その被害をどこまで減らすのかという「減災」の考え方を導入した。また、原子力規制委員会を作り、原子力政策の見直しを行った。これが「防災3.0」である。
気候変動がもたらす災害の激甚化に注目
昨年の10月に防災担当大臣になった私が今考えているのは、次に来るのは地球温暖化に伴う気候変動による災害の激甚化ではないかということだ。自然災害というと首都直下型地震とか南海トラフなど、みなさん地震に目が行きがちだが、地震より可能性の大きいものは、首都圏を襲う大規模水害ではないかと思う。
ここに「荒川での被害想定」という資料がある。荒川と隅田川の合流点の堤防が決壊すると、浸水面積は110平方キロメートルで、浸水区域内に約120万人がおり、浸水世帯数が約51万世帯になるとされる。首都直下型地震が起きると200万人が帰宅困難になると言われているので、そのぐらいの方が水害の影響を受けることになる。
また、120万人もの人に対して、避難勧告、避難指示をどうするのかという問題もある。現状は荒川区の区長が出すことになっているが、もし空振りだったら、それだけの人を動かして政治的にどうなるのか。ましてや、そこの人たちがどこに逃げ、どこが受け入れるのかも問題である。そのため、東京都知事か防災大臣あたりが、空振り覚悟で責任を持って避難勧告、避難指示を出さなくてはいけないのではないか。
今の東京の地下鉄網は大変広範囲に整備されているが、水害が起これば当然、地下鉄にも水が入っていく。1つの駅が冠水すれば、地下鉄の路線を伝わって、次々と駅が沈んでいくことになる。ごく最近、チェコのプラハの地下鉄が洪水で冠水したが、復旧に半年以上かかったそうだ。
激甚災害に対する備えは十分か
気候変動による激甚災害への備えを、今、しっかり考えていかなければならない。今回の熊本地震の教訓をいくつか挙げてみると、大規模地震では家屋が相当倒壊し、町役場も村役場の職員も被災しているので、自治体に「頑張ってください」といても無理である。
そこで熊本地震では、10万人避難しているとして、国がとりあえずまず3食3日分、90万食を「プッシュ型」といって、自治体から要請がある前に送り始めたが、それでも発災から避難所に物が届くのに3日かかった。そのため、各家庭で食料と水の確保は最低でも3日分、できれば1週間分を、さらにいざという時のための経済的な備えで、地震保険や災害保険に入っておくということを、国がもう少し積極的にお願いしていかなければならないと思っている。
こうした大規模災害の後に必ず出てくるのが、日本もアメリカの危機管理庁のようなものを作ったほうがいいのではないかという議論だ。これに対し、この熊本地震からの1か月を振り返って考えてみたい。政府が全部で230万食の食料と水を一気に調達し、避難所に届けることができた。それは普段、食品メーカーとの付き合いがある農林水産省の担当が、無理難題を承知の上で食品メーカーにお願いしたからだ。
また、経済産業省は電気、ガスを復旧させるために、全国から電気・ガスの技術者を1000人単位で熊本に送った。水道も塩崎厚労大臣が関係者に直接電話をして、人を集め、予定よりも早く復旧させた。
普段、内閣府の防災部局には97人しかいないが、発災後、内閣府のオペレーションルームは直ちに200人体制になり、24時間稼働することができた。このことから、普段人間関係がある人が、災害時に防災部局のオペレーションルームに駆けつけ、そこで調整しながら指示を出すというほうが、危機管理庁のようなものをつくるより、スムーズにいくのではないかといのが、私の偽らざる気持ちである。
また、今回のような大きな地震では、役場の職員も被災しているので、いざという時は国が、あるは県が人を出す、広域に自治体から人を出してもらわなければならない。そのため、各都道府県から応援に人を出せるように、普段からトレーニングをしておく、または内閣府防災部局で研修を行う必要があるだろう。
行政や各企業のデータのバックアップ体制は大丈夫か
もう一つの問題提起は、国の行政のバックアップ体制だ。現在、もし首都直下型地震が起きた時など、いざという時のために立川にバックアップの司令塔を作っているが、はたして今回の熊本のような大きな地震が首都で起きた場合、国の行政機能がこの中で完結できるのだろうか。首都機能自体をバックアップするようなものが必要ではないか。さらに企業のバックアップはしっかりできているかなどについても、きちんと考えておかなくてはいけないだろうと思う。
今、サイバーテロがかなり深刻な問題になりつつある。国家公安委員長としてCIAやMI5など、いろいろなところと付き合うようになり、どこの国でもISが近いうちにサイバーテロを起こすであろうと言っている。
サイバーテロは距離が遠い近いは関係なくやってくる。それに対する備え、特に電力、金融、鉄道、国の行政や防衛、そういう重要なインフラの防御がしっかりできているかというと、私は少し心もとない気がしてならない。ここは国として各産業、業界にしっかりお願いをして、サイバーテロに備えていただく必要があると思っている。
日本という国は、自然災害は避けて通れない。自然災害との付き合いをずっと続けていく中で、どう自然災害から国を守るのか、政治として何をやらなければならないのかを、真剣に考えていかなければならない。
そして今までのように「行政が防災をやります」というのは、もうできない。これからは家庭で、地域で、職場で一緒に考え、いかに減災、災害が起きた時の被害を減らすかという備えを、行政と一緒になってやってもらわなければならない時期にきているのである。
※講演全文は月刊『世界と日本』1266号に収録されます。また、要約は週刊「世界と日本」NO.2079号に掲載されます。
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http://www.naigainews.jp/懇談会/懇談会動画/動画-河野氏-会員専用/
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