Coffee Break<週刊「世界と日本」2221号より>
Podcastから見える新たな世界とこだわり
政治ジャーナリスト
細川 珠生氏
《ほそかわ たまお》
1968年生まれ。聖心女子大学英文科卒。三井住友建設(株)社外取締役。(公財)国家基本問題研究所理事。熊本藩主・細川忠興と明智光秀の娘・玉夫妻の直系卑属。洗礼名・ガラシャ。1995年より「細川珠生のモーニングトーク」(ラジオ日本)に出演。2021年3月番組終了まで、放送通算1337回、延べ768人のゲストが出演。同年4月よりPodcast放送で世界に配信中。著書に『明智光秀10の謎』(本郷和人共著)、『私の先祖 明智光秀』(共に宝島社)ほか多数。
インターネットを通じて、世界のどこでも聴けるPodcast(ポッドキャスト)で番組を始めて1年。日本の姿、特に“リーダー”達の考えを世界に発信したいという思いで始めた番組は、この1年でゲストも50人超。そのうち、政治家が9割だが、文化・芸術、介護や児童虐待問題などに携わる方などをゲストに迎えてきた。「相手の話を、とにかく、じっくり聞く。そこから、更に疑問点、聞きたいことを聞いていく。耳は顔の横についているだけでなく、心の中にもある。」—ジャーナリストの大先輩である、父(細川隆一郎)の教えを心に刻みながら駆け抜けた1年を振り返る。
私の「しゃべり」の原点は、1995年に、ラジオ日本で父と一緒に始めた「珠生・隆一郎のモーニングトーク」である。50歳の年齢差のある親子対談であることが特徴であった当番組は、その週に国内外で起きた事象を取り上げ、台本無しで語り合うスタイルであり、父の脳梗塞による療養生活中も、私自身の結婚・出産も経ながら、父が他界した2009年まで14年間続いた。
父の他界後は、「細川珠生のモーニングトーク」と改名し、時事問題を取り上げるというコンセプトは変えず、月に2回は政治評論家の岩見隆夫氏と、それ以外はその時々のテーマに応じたゲストを迎えての番組として継承した。岩見氏の他界後は、毎週ゲストと共に進行し、2021年3月まで、父との番組のスタートから26年6か月、出産で出演が出来なかった4回を除き、通算1337回、政治家を中心に延べ768人のゲストとトークを繰り広げた。
2021年4月からは、「細川珠生の気になる珠手箱〜Leader,
s Perspective of Japan」として、ポッドキャストへ「舞台」を変えた理由は、先述の通りだが、番組の配信頻度や長さに柔軟性があること、アーカイブとして保存し、いつでも何度でも聴くことができることも理由である。音声メディアとしては、ラジオ日本で番組をしていたころと変わらないことも多く、例えば、視覚に訴えることができない分、なるべく平易な言葉を使い、丁寧に話すなど、言葉でしか伝えれられないことの難しさというより、大切さを意識している。その上で、私がポッドキャストという「舞台」が変わることを機に、新たに、あるいは改めてこだわった点は、以下の2点である。
1つは、「リーダー達の考えを世界に発信する」というコンセプトの中で、特に、「人となり」が伝わる内容にしたいということである。時事問題として政治家に話を聞く中心は、政策であり政局である。私は別の側面から、政治家の人柄が伝わる内容にしたいと考えてきた。どんな学生時代を送っていたのか、前職ではどんな仕事内容であったのかなど、ゲストの政治家も、「こんな話、初めてする」というような話題も多数引き出してきた。ジャーナリストと政治家には緊張感が必要であり、和やかにトークを繰り広げることの是非もあろう。それでも「人柄」にこだわったのは、その人のこれまでの歩みや人間性が、思考を作り出していると考えてきたからである。例えば、第2回に出演していただいた岸田文雄総理の、ニューヨークで過ごした小学生時代の話、林芳正外務大臣には商社マンとして煙草の買い付けを行っていた時の話(タバコの葉の見分け方など)、鈴木馨祐元外・財務副大臣には、「ほとんど毎日水の上にいた」という東京大学ボート部時代の話、日本維新の会の足立康史氏は、水球部だった高校時代に、「ほとんど水着で過ごしていた」という話、松川るい前防衛大臣政務官は、大学の進学先を決めるときに、将来の目標が定かではないけれど、「とりあえず東大に行こうと思った」という話、柿沢未途氏は、東大時代に競馬の予測に熱中していたという話。
また女性議員の時は、女性活躍と国会の職場としてのブラックぶりという矛盾に大いに話が盛り上がるなど、これまで幾度となく取材してきた政治家ではあるが、新たな一面、特に人間味のある一面を見ることで、政治がより身近に感じられたり、政治家の行動についてより理解しやすくなるなど、政治を複眼的に観るという役割を担えてきたのではないかと、私自身は感じているのである。
番組においてこだわった2点目は、「品のよい番組」を作るということである。インターネット、SNSの世界は、何でもありと勘違いし、“口撃”や誹謗中傷が行き過ぎてしまう傾向にある。度が過ぎる演出は絶対に行わず、節度や品性を重んじた番組とするということである。アプリと時間を使えば、一人でも番組作りは可能となった時代であっても、ゲスト選びやテーマなどはスタッフとしっかり相談し、編集もプロに依頼し、独善的にならないことで、誰の目からしても良識的な番組であると思ってもらえる番組作りにこだわっているということである。
当番組ではゲストの9割以上は政治家であるが、芸術家や福祉分野の専門家などから、「知らなかった話」を聞いてきたが、今後も機会を作っていきたいと考えている。欲を言えば、自分の番組を立ち上げる前から聴いているオバマ元米大統領夫人のミシェル・オバマ氏のPodcastのように、より自然体で赤裸々に語れるような番組の「トーン」を模索してみたい。