サブメニュー

    ●週刊「世界と日本」コラム

    外部各種イベント・セミナー情報

    • 皆様からの情報もお待ちしております

    お役立ちリンク集

    • お役立ちサイトをご紹介します

    Coffee Break

    • 政治からちょっと離れた時間をお届けできればと思いご紹介します

    東京懇談会録

    • ※会員の方向けのページです

    ●時局への発言ほか

    明治維新150年チャンネル

    • 2018年、平成30年は明治維新からちょうど150年。
    • お知らせ

      ●会員専用コンテンツの閲覧について
      法人会員及び個人会員、週刊・月刊「世界と日本」購読者の方で、パスワードをお忘れの方はその旨をメールにてご連絡ください。その際に契約内容が分かる内容を明記ください。折り返し、小社で確認後メールにてご連絡します。

      パスワードお問い合わせ先

      tokyo@naigainews.jp

    Coffee Break<週刊「世界と日本」2262号より>

    日本の真の競争力とは

    —大阪・関西万博を控えて—

    元文化庁長官

    国際ファッション専門職大学学長

    (一社)人文知応援フォーラム

    共同代表

    近藤 誠一 

     《こんどう せいいち》 1972年外務省入省。広報文化交流部長を経て、2006年からユネスコ日本政府代表部特命全権大使。08年よりデンマーク大使。10年より13年まで文化庁長官を務め、三保松原を含めた富士山の世界文化遺産の登録を実現。現在、近藤文化・外交研究所代表、東京都交響楽団理事長、TAKUMI-Art du Japon代表理事などをつとめ、19年4月国際ファッション専門職大学学長に就任。

    東海道新幹線で感じたこと

     

     昨年秋、東海道新幹線の車内販売がなくなり、代わりに各駅にコーヒーやアイスクリームの自動販売機が設置された。乗客が乗る前に欲しいものが買えるように。ただグリーン車だけは、座席の前にあるQRコードからスマホで注文ができるようになった。年末京都に行く機会に早速試してみた。

     「お飲み物」、「ホットコーヒー」、「ミルク無し」、「シュガー」の順で注文をした。そしてわずか3〜4分で女性のパーサーが現れた。客の目を見て微笑みながら、「ホットコーヒーお持ちしました。ミルクはお使いになりませんね。これがお砂糖です、お熱いのでお気をつけ下さい」と言って、コーヒーの入った容器をそっとテーブルの上に置いた。そして「またお待ちしております」と微笑んで去っていった。わずか1分足らずの間だ。いつ廻ってくるか分からない車内販売を待たずに、欲しい時に欲しいものが手に入り、そこに小さな“もてなし”の心を感じとることができた。読んでいた書類から目を離し、窓外の景色に旅情を感じた。

     経済効率論から言えば、これは無駄なサービスだという人もいる。自動販売機なら注文通りのもの(砂糖入りブラックコーヒー)が出てくればそれでいい。熱いことは機械に言われなくても分かっている。

     しかしコミュニケーションとは、情報を相手に正確に伝え、言った通りのことを迅速に実行してもらうこと、つまり用件の効率的処理だけを目的とする訳ではない。例え初対面であっても相手への思いやりや気遣いをそれとなく伝え合うことで心と心を繋ぐという役割もある。それが社会を和らげる。そうした数値化できない価値と、効率化によるコストダウンとどちらが重要なのだろうか。

     

    日本文化の誇るべき点

     

     小さなことではあるが、こうした心遣いこそ、日本人の文化の最大の美点のひとつだと思う。丁度そのときは、学長をしている「国際ファッション専門職大学」の紀要(第5号)に最近出版した『近藤誠一全集』(かまくら春秋社)の第1〜3巻の自著紹介文を執筆中だった。これは過去6年にわたり、毎月伝統工藝の人間国宝を中心とした文化関係者の方々と行った対談のうち、日本人論に関係した47件を取り上げた記録だ。そこでは、①日本の伝統文化の特性とその人類史的価値、および②それを如何にして日本人に継承し、同時に世界に伝えるべきかがテーマとなっている。その紹介文を書くに当たって、上述のコーヒーのエピソードは良いヒントとなった。

     日本文化のさまざまな特性の根底にあるものを一言で言えば、それは人間も自然の一部であるという自然観や、個は独立したものでなく、他の個との関係性をもちつつ全体を構成するという世界観、さらに人と人の間のつながりは身体だけでなく心を通わすことを重視することだ。実際にはこれらが一体となって日常生活の一部になっているため、我々はほとんど意識しない。しかし伝統工藝家たちは、一方で最新のテクノロジーを使いつつも、こうした精神をしっかり維持していることを、この対談での作品や言葉で気づかせてくれる。

     日本人が自然に畏敬(いけい)と愛着の念をもって接することはしばしば論じられるが、この対談では作家(匠)の方々の生の言葉の中にそれが如実に表れている。例えば室瀬和美氏(蒔絵の人間国宝)は、漆が早く乾くようにコントロールしようとしてはいけない、漆がもう触っていいよと教えてくれるまで待たねばならないと言われた。佐々木苑子氏(紬織の人間国宝)も、糸をつむぐときは、糸がどうして欲しいか語り掛けてくるので、その意図との「こころの対話」を途切らせてはいけないと述べられた。

     伝統工藝に共通しているのは、作家は将来の使い手のことを考えながら自分の想いを込めて作品を作り、使い手はそれを手に取って作家の情熱に想いを馳せ、ともに同じ宇宙で生きていることを感じることを前提としていることだ。作品の役割は作家の自己主張の表現ではなく、人と人の心と心をつなぐ仲立ちなのだ。

     こうした日本人の心が、利己心を抑え、違いを超えていたわりあって社会の連帯や平和をつくっていく上で重要な役割を果たすことは明らかであり、我々はもっと自信をもつべきだ。

     

    大阪・関西万博へ

     

     だがこうした日本人の精神性の価値を、若い人や外国人に伝えることは容易でない。日本人自身が十分認識していないことや、謙虚さがその背景にある。しかしそれでも自然破壊と社会の分断、デジタル技術の暴走と悪用を統卸(とうぎよ)し切れぬまま、人と人の心のつながりがますます希薄になっている今、関係性や調和を基本とする日本人の精神性が、世界の今後の健全な発展の土壌づくりに貢献する可能性は高い。それは日本人自身のモチベーションを高め、世界に対するユニークな貢献ができる国を次世代に継承することに繋がる。

     では何をしたら良いのか。言葉や動画のネット配信で日本文化の特性を伝えることができるとは思えない。日本に住んで日本人の生活を体験して欲しい。

     その絶好の機会が来年の大阪・関西万博である。お祭りや商業展示会ではなく、人類が抱える大きな問題を解決するための共同行動を起こす機会を提供するのがいまの万博の役割だ。会場での展示やイベントを通じて、最新のテクノロジーや現代アートを競い合うことも良いが、日本の自然や日本人の生活ぶりを体験してもらうプログラムを用意し、自然に対するこれまでとは違う発想や、デジタル化がもたらす人間性への漠たる不安に応えてくれる生き方が日本にあることを体感し、考えてもらう仕組みを考えるべきだ。民宿や伝統工藝の工房での制作体験の機会を与えるなど。

     それを考える上で新幹線のコーヒーはひとつのヒントとなるのではないだろうか。日本の戦後の復興が称賛されたように、デジタル世界を人間性を失わずに発展させる「ミラクル」を、再び日本が起こすことを目指してはどうか。それがこれからの日本の真の競争力なのだから。

     

    【AD】

    国際高専がわかる!ICTサイト
    徳川ミュージアム
    ホテルグランドヒル市ヶ谷
    沖縄カヌチャリゾート
    大阪新阪急ホテル
    富山電気ビルデイング
    ことのは
    全日本教職員連盟
    新情報センター
    さくら舎
    銀座フェニックスプラザ
    ミーティングインフォメーションセンター