Coffee Break<週刊「世界と日本」2273号より>
爽風エッセイ
「観光立国」ガストロノミーツーリズムの魅力

(一社)ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構
理事長
小川 正人氏
地域の食の魅力をアピールして、世界から観光客を地域に呼び込もうと言うガストロノミーツーリズムは、日本でも近年漸くその機運が高まってきた。その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食文化を楽しみ、触れることを目的としたツーリズムであり、地域の持続的発展に資するとして国連機関であるUNWTOが推奨している。私が主催するONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構は、日本各地にある温泉地を拠点にその周辺をウォーキングの目線で歩いて巡り、各ポイントで、その土地の食や酒を楽しむONSEN・ガストロノミーウォーミングを実施して、もう9年目に突入した。この間、北は、北海道、南は、沖縄、台湾、まで約180回の開催、延べ参加者は、約2万7千人に及んでいる。この間、当初耳慣れなかったガストロノミーツーリズムと言う言葉もNHKを始め多くの新聞で頻繁に見出しを飾るようになった。
私が、この活動を始めたきっかけは、前職のANA総合研究所で地域活性化を担当した事にある。私が長く務めたANAは、多くの国内線を運航しており、中でも東京、大阪等の大都市と地方を結ぶ路線が多い。地域の活性化は、自らのレゾンデートルにも繋がるという事で地域活性化に力を入れていた。本当に多くの地域を訪れる機会に恵まれたが、どの地域も印象深く美しく、食自慢で美味しい地酒を誇る。地元の自慢の食材や酒を東京市場に出したい。海外へ輸出したいと言う希望が強かったので、マルシェや海外輸出のお手伝いをしたが、そこで二つの大きな壁に当たった。量と時期である。例えば対馬は、穴子の大産地でとても美味だが、東京のマーケットを満たす程の量はとれないので、江戸前の穴子等と一緒に販売されてしまう。また、自慢の食材には旬の時期があり一年中楽しめる訳ではない。結局、豊洲市場等から仕入れた方が良いとなり、地域自慢の食材は、他の食材の中に埋没してしまう。
この問題の解決策のひとつがガストロノミーツーリズムである。その土地の一番自慢の食材を一番美味しい旬の時期に食べに来てもらえばよい。そして地域そのものを好きになって貰い、ファンになって頂く、食をフックにしたツーリズムである。私が範としているアルザスでは、約280万人の人口の地域に年間約2800万人の観光客が訪れる一大観光地であり、主な物だけでも100以上のワイナリーを有するアルザスワイン街道が有名である。アルザス産ワインはその60%が、観光客を始めとするワイナリーを訪れるお客様に直接購入される。残りの20%ずつがレストラン向けと輸出だそうである。一方で、日本酒は90%が流通を通じて販売され流通コストがかかっている。ガストロノミーツーリズムは、持続的に観光客を地域に呼び込み、地域を活性化させるだけでなく産業の活性化にも繋がる地域活性の万能薬になり得る。日本の地域は可能性に溢れており、ONSEN・ガストロノミーウォーキングも活性化のきっかけになると確信している。