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    Coffee Break<週刊「世界と日本」2274号より>

    『健康経営をベースとした経営戦略の極意』

    —働く人のメンタルへルスを考える—

    特定非営利活動法人 健康経営研究会 理事長

    岡田 邦夫

    《おかだ くにお》

    1982年大阪市立大学(現大阪公立大学)大学院修了後、大阪ガス株式会社産業医。2006年NPO法人健康経営研究会設立、理事長就任。大阪市立大学医学部臨床教授ほか、厚生労働省、文部科学省等の委員会委員を歴任。現在、経済産業省 健康・医療新産業協議会健康投資WG委員、大阪商工会議所メンタルヘルスマネジメント検定委員会副委員長。

     

     

    現代社会のメンタルヘルス

     激動する現代社会は、私たちに知らず知らずのうちに心身の不調を発症させている。つまり、社会の大きな変化に適応できなくなった場合、潜在的に心身の健康問題を静かに発生させているのである。

     動物的本能の視点(弱肉強食)からは、例えば自分より強い相手に遭遇した場合には、本能的にまた咄嗟に逃げるという行動を取り、明らかに弱いと判断した場合には直ちに攻撃して捕食することになる。ただ、判断ができず、行動に移せない場合には、例えば擬態反応、つまり自らを防御するための自衛行動をとることになる。時としていわゆる「死んだふり」を選択し、何とかなるまで何もしなくなる。これらはすべてその時の環境に適応するための防衛行動であるといえる。

     さて、現代社会の心の健康問題は、果たして、どのような原因で増え続けているのであろうか。ここで、Flight or Fight反応に基づいた現代社会のメンタルヘルス不調について考えてみたい。

     

    働く人のメンタルヘルス不調

     もし、命じられた職務が適正配置により自分の適性に合致し、さらに上司に恵まれている場合には、エンゲージメントは向上し、熱意をもって仕事に取り組む可能性が高くなる(Fight)。つまり、働きがいを感じかつ業務アウトカムについての上司の評価も高くなるからであろう。「失敗」に対するストレス度が高いとする調査結果(1)から、職場では、職務適性を考慮した適正配置がプレゼンティーズムやアブセンティーズムを予防するための最も有効な手段である。

     しかし、全く逆の場合は、つまり苦手かつ不得意な職務でかつ上司との人間関係が好ましくない場合にはエンゲージメントは低下し、働きがいは喪失することになる。この場合、身の危険を感じた場合には、離職して新たな職場を見つけることに奔走することになる(Flight)。このとき、新たな道を見つけることに成功した場合は社会的な問題は発生しないが、思い通りにいかないことに対して怒りの感情が強く出た場合には、社会や人に対して攻撃的になり、自分を正当化しようとする防衛反応が出現することがある。パワーハラスメント、DV、カスタマーハラスメント、など他人を攻撃して、自己防衛することになる。または反社会的行動をとる場合もありうる。上司が多忙となり、現状から逃避したいと葛藤しているときには、部下に対するハラスメント等が起こりやすくなるのではないだろうか。このような行動の一つとして、丸山はその著書(2)において「抑圧の移譲による精神的均衡の保持」という現象としている。ストレス、不安、不満、恐怖、心配等の心理的負荷のはけ口としてハラスメント(行動的表現)であろう。

     

     さて、問題は、いわゆるFreezeの場合である。あまりにも巨大な動物に遭遇した小さな動物は、その脅威に立ち向かうことも、恐怖で逃げることもできず、心身の機能が停止し、進退窮まってしまうことになる。働く人の場合には、このような状況に陥った時には、夜眠れない、朝起きることができない、体が動かない、といった身体症状が出現し、突発休となってしまう。自分で自分の体が制御できなくなったのである。このままではさらに職場の居所がなくなるので、専門医を受診して診断書に基づいて自宅療養となる。つまり、自己防衛反応としてのFreeze、一種の体温低下による閉じこもりである。もし、急速冷凍であれば、重度の症状が出現するが、一般的には緩慢冷凍になることが多く、徐々に症状は悪化し、休職にいたることになる。時に液体窒素(マイナス192度)による冷凍は、自己防衛反応もできず、生命が奪われてしまうことになる。

     Fight,Flight そしてFreezeを常に感じている現代人達は、変化し続ける社会に何とか適応しようとしているのであるが、抵抗しきれない場合には、適応障害という身を守る行動を本能的に取らざるを得ないのである。

     

    経営戦略としてのメンタルヘルスケア

     新型コロナウイルス感染症によってもたらされたパンデミックは、社会の不安を増大させ、自殺者を増加させた。今まで経験のなかった在宅勤務やリモートワーク等の働き方の変化もまた、働く人の「適応障害」をもたらしメンタルヘルスを損なうことになった。自宅でのオンライン会議の普及は、ITリテラシーが十分でない中高年齢者には、大きなストレッサーとなり、種々の心身の不調をもたらした。

     メンタルヘルスを維持するためには、心の健康問題としての解決方法を探る前に、働き方について経営者がしっかりと考える必要があるのではないだろうか。どのような職務に就きたいのか、上司は部下の職務適性をしっかりと把握し、その適正配置を行い、柔軟な働き方を職場に導入することで、わが国の低い労働生産性を向上させることになるのではないだろうか。従業員に対する「信頼」がなければ、経営者も管理職も不安になり、対処行動をとってしまうことになる。

     また、自殺の原因としての健康問題は、有職者において重要課題となっている。働く人の健康問題の原因は、「働くこと」であることはいうまでもないが、職場の「人間関係」を如何に改善するかは、「働きがいのある仕事」を上司と部下が1on?1のコミュニケーションを密に図り、心理的安全性を確保することにある。「働くこと」をDistressではなくEustressにする方策にするのが、健康経営である。そこには、経営者の倫理的思考のベースと、管理監督者のリーダーシップが必要不可欠である。毎年のように過去最高を記録している精神障害の労災請求件数(3)において、その原因が、上司とのトラブル、上司からのハラスメントであることから、職場が内戦状態に陥り、お互いに傷つけあっていることがわかる。

     また、経営者への信頼と企業への信頼に乖離(4)があるのはなぜだろうか。人的資本経営において、管理職への投資を怠ったのであれば、遅くはない、今からでも無形資産である「人」に対する投資を続けることで、心の健康問題は解決していくのではないだろうか。少子高齢化はわが国に極めて大きな不安をもたらし、企業経営における影響も計り知れないものがある。

     定年を70歳に引き上げたとしても、海外からの労働者の雇用は必須である。しかし、現状の長時間労働(改善しつつあるとはいえ)、と心の健康問題は労働生産性を減少させる要因である。むしろ睡眠時間を増やし、労働時間を短くすることで1時間当たりの労働生産性が上昇することを期待したい。

     

     わが国のDX化については、2025年の崖(既存ITシステムの崖)DX化の遅れによる経済損失は、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)にのぼる可能性が指摘されている(5)。

     「働くこと」のストレスは、「働くこと」で解消し、ゆとりある時間で英気を養うワークライフを構築しなければ今後の定年延長に耐えられないのではないかと危惧するものである。

     この危惧がさらに大きくならないように、現実化しないようにするのは、経営者のパワーであり、管理職に対する経営者のエンパワーメントである。コロナ禍においてわが国の生産性が著しい低下を見なかったことは、「経済複雑性ランキング」(6)がこの30年間、常に世界でトップであるわが国のゆるぎない企業の底力があるからであろう。

     

    《参考文献》

    (1)令和4年 労働安全衛生調査(実態調査)の概況 令和5年8月4日 

    (2)丸山眞男著 古矢旬編.超国家主義の論理と心理. 岩波文庫 2015

    (3)厚生労働省 令和4年度 過労死等の労災補償状況 令和5年6月30日

    (4)2024 Edelman Trust Barometer Global Report

    (5)DXレポート〜ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開〜

    (6)Country & Product Complexity Rankings

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