Coffee Break<週刊「世界と日本」2274号より>
爽風エッセイ
食がもたらす大切な警鐘
NPO銀座ミツバチプロジェクト副理事長
田中 淳夫氏
毎年春先の天候不順の対応に苦慮しながら19年目の春を迎えた。今年は銀座3カ所、丸の内2カ所の養蜂場に短期間ではあるが銀座1カ所増やして挑戦。
現在2㌧の蜂蜜が収穫出来たが、今期の目標2・5トンを目指す。令和4年の国内生産量2500㌧なので銀座周辺の限られた場所でなんと0・1%の生産者となる。米でも肉でも0・1%の生産者はインパクトがある。しかも都心の繁華街が生産地となる。
今年2月「銀座はちみつ」が特許庁の地域団体商標を取得できた。松阪牛、草加せんべい、江戸切子といった地域と商品名が一定の地域で認められたブランドを守り育てようとする後ろ盾が得られた。2006年当初銀座でミツバチを育てる活動に周囲から大丈夫なのかと心配の声が有った時代と隔世の感が有る。今では札幌から鹿児島まで全国100カ所以上、海外でもパリ、ロンドン、NY、ソウルと都市養蜂が広がっている。先日、インドの環境活動家たちが訪ねて来てインド農村の環境改善につなげるためバンガロールでミツバチプロジェクトを立ち上げたいので支援して欲しいと相談に来て驚いた。世界のIT産業の集積する都市で、日本的環境活動がハンズオンされインドに広がれば面白い。世界では環境や循環型社会のあり方が企業経営でも利益に並ぶ大切なテーマになった。特にハイブランドを扱う銀座のような街ではなおさらで、LVグループのフランス化粧品GUERLAINが私たちの子供の環境教育や女性養蜂研修に支援してくれる。環境指標のミツバチを通して環境活動を応援したいと様々な団体から申し出を受けるようになった。
面白いことに私たちの活動は単なる環境活動だけでなく蜂蜜と言う農産物の生産もイコールでつながっている。丸の内では場を提供していただいている三菱地所の協力のもと早朝から丸の内ホテル、アマン東京、ペニンシュラホテル、帝国ホテル、パレスホテルなどたくさんのシェフやパティシエの皆さんが参加して大賑わいで養蜂作業している。限られた範囲(テロワール)から集められた芳醇な香りの蜂蜜に誰もが驚き感動を受ける。この顔の見える関係から様々な料理や商品が誕生している。
こうしておいしい花の香りを楽しむ食の感動の一方で様々な疑問が湧いてくる。なぜ世界的にミツバチは減少しているのか。なぜフィンランドに次いで世界第2の森林大国なのに蜂蜜の自給率が5%で95%が輸入なのか等、たくさんの問いを受けている。都会でポリネーターであるミツバチが飛ぶようになって小さな昆虫も地域の環境にとても大切であると言うことが理解されるようになった。
銀ぱちは、繁華街で養蜂するだけでなく都会に住む人々への環境の窓としての役割が求められ、大切な食の関心も呼び起こす存在になってきた。
今後蜂蜜を時系列に花粉分析をかけて地域の植生やそこから見えてくる都市の環境もデザインしていこうと考えている。
私たちの蜂蜜は、単に甘い食材だけでなく、私たち人間に少しほろ苦い現実も教えてくれる存在なのだ。