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    Coffee Break<週刊「世界と日本」2275号より>

    爽風エッセイ

    2023年のサーロの味

     

     

     

     

     

     

     

    神戸学院大学経済学部教授

    岡部 芳彦 

     1992年1月、高校3年生だった筆者はソ連崩壊直後のウクライナを初めて訪れた。最初にまずモスクワを訪れたが、治安状態は最悪で、マーケットではマフィアが跋扈し、ホテルのロビーには娼婦が屯する純朴な高校生には理解できないカオスの世界だった。新生ロシアとは名ばかりで、どちらかといえばソ連という大国の国家破綻に嘆くロシア人が多かった気もする。

     

     その後、ウクライナの首都キーウを訪れたが、所々に同じような混乱はみられるものの、待ちわびた独立を喜ぶ人のほうが多かったのを鮮明に覚えている。市場で「独立祝いに」と巣蜜をくれた老婆の笑顔と、生まれて初めてかじったその味は今でも忘れられない。

     キーウのレストランで、まったく見たことのない白いやや厚切りハムのようなものを食べた。「サーロ」という名の豚の生脂肪の塩漬けで、常温で保管でき、また高栄養価であるという。

     かつてはウクライナのコサックたちが遠征に持ち歩いたとも言われた。レストランのオーナーが「今から60年前、ウクライナで大飢饉があったが、これでウクライナ人は生き延びた」と話した。その時は、何のことか分からなかったが、ウクライナ研究を始めてから、1932年から始まった「ホロドモール」のことであると知った。

     

     ホロドモールは、ソ連当局から実現不可能なノルマが課され、強制的な徴発が行われたことから、スターリンによる計画的な人工飢饉であり、独立意識の高いウクライナ人に狙ったジェノサイドだとも言われることもある。一方、豚の脂身については、持ち帰りが許されたこともあり、そのおかげでウクライナ人が生き延びたという人もいる。

     ウクライナ料理と言えば、最近やっと「ボルシチ」がロシアではなくウクライナ発祥の郷土料理であることが知られるようになった。2022年7月1日には「ウクライナのボルシチ料理の文化」として、ロシアの侵略により脅かされているとの理由でユネスコの「緊急保護が必要な無形文化遺産」にも登録された。侵略とは、まずは相手国の文化を奪うだけではなく、食文化をも飲み込んでしまうのかもしれない。

     

     戦争が始まってから日本にやってきたウクライナ人の講演会で興味深い話を聞いた。ロシアのウクライナ侵略が始まる直前の2022年2月初め、第二次世界大戦を生き延びたウクライナのある老婦人がサーロを漬け始めたという。それを聞いた若者たちは嘲笑気味だったが、侵略が始まって、正しかったことに気づいた。その老婦人は避難する際に、そのサーロも持っていったに違いない。

     昨年9月にキーウを訪れた際、中心地の独立広場に近い地下にあるおしゃれなレストランで、ウクライナ国営通信社で働く平野高志さんと食事をした。最初の注文は、やはりサーロだった。

     

     1932年の飢饉ではウクライナ人はサーロで生き延びた。1992年、悲願の独立を祝ってサーロとウォッカで乾杯したウクライナ人も大勢いただろう。そして2022年、自分の命を守るためサーロを漬けた老婦人がいた。

     ウクライナ人のソウルフードであるとともに悲しい歴史も垣間見える「サーロ」。

     いつ鳴るか分からない空襲警報を気にしながらも、ウクライナ人の命を守り続けたサーロをつまみにグラスを傾けた。2023年のサーロは、今まで食べたものとまた違った味わいだった。

     

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