Coffee Break<週刊「世界と日本」2281号より>
大谷翔平とデコピンという理想

尚美学園大学 教授
佐野 慎輔氏
《さの しんすけ》
1954年富山県生まれ。早大卒。産経新聞編集局次長兼運動部長、取締役サンケイスポーツ代表などを経て現職。産経新聞客員論説委員、笹川スポーツ財団理事・スポーツ政策研究所上席特別研究員、日本スポーツフェアネス推進機構体制審議委員などを務める。近著に『スポーツの現在地を考える』共著(ベースボールマガジン社)など
ワールドシリーズ第2戦。ドジャースの大谷翔平選手が二塁盗塁した際、左肩を亜脱臼するアクシデントが起きた。ベース内蔵マイクが「痛てぇ」という大谷の声を拾い、テレビ観戦の当方まで思わず声をあげた。日本中でそうした反応があったのではないか。ドジャースタジアムは一瞬静まり返ったという。内外の野球ファンが大谷を心配していた。
長いMLB史上初めて「50本塁打?50盗塁」の偉業を成し遂げ、2年連続本塁打王に日本人選手初の打点王。エンゼルスから「しびれる」9—10月を求めてドジャースに移籍。その1年目で「夢」を実現した。
こと野球に於いて大谷に実現できないものはないと思わせる。MLBではベーブ・ルース、日本のプロ野球ならば長嶋茂雄プラス王貞治。英雄たちを思い起こし、野球少年そのままの笑顔が観るものを引き込む。
ドジャース1年目は決して順調に開幕したわけではない。MLB移籍以来行動を共にした水原一平通訳の賭博関与の発覚は大谷を悩ませた。それでも大谷は大谷のままに打ち、足でチームを勝利に導いた。
心の緊張を解きほぐし活躍を支えたのは2月末に結婚を発表した真美子夫人であり、愛犬デコピン(米国ではデコイ)である。
デコピンは昨年11月、ア・リーグMVPに選ばれた大谷の会見に同席、ふわふわした毛並みと愛くるしい表情で主役の座を奪った。ドジャース入団会見で名前が話題となり、8月には始球式に“登板”し、大観衆の前でホームで待つ大谷のもとにボールを運んだ。大谷はデコピンがデザインされた特注スパイクやスーツを披露、周囲をほのぼのとさせた。辛口で知られる週刊新潮までが話題にし、MLB公式サイトは名場面写真を特集、ポストシーズンのアイコンとして登場させている。
しばしば人は夢や理想を時代のスターに託す。大谷の活躍と真美子夫人、デコピンのありようは「理想のかたち」なのである。