ダイバーシティ『女性躍進の現在と今後』
東京海上日動火災保険(株)人事企画部
ダイバーシティ推進チームリーダー
小瀬村 幸子 氏
日本で最初の損害保険会社として明治12年に創業し、以来135年間に渡り、業界をリードし続けてきた東京海上日動火災保険(株)。「人材」を財産と考える同社は、女性の活躍推進にも積極的に取り組んでいる。その概要を、人事企画部の小瀬村氏に伺った。
女性の活躍推進にチャレンジの場を
―貴社が積極的に女性の活躍を推進する、その原点を教えてください。
保険事業は形のない商品を扱うため、人と人の信頼関係を築くことが最も重要であり、そのための社員の人材育成には力を入れてきました。
また、当社は女性と男性の構成比がほぼ半々なので、女性の活躍は欠かすことができず、特にこの10年間はいろいろな取り組みを進めてまいりました。
―具体的には、どんな取り組みをされているのですか。
大きく3つあります。
まず1つ目は、人事制度の改定です。それまで「総合職」と「一般職」に分けていた職種を、転居を伴う転勤の有無により「全国型」と「地域型」に区分しました。また全国型でも地域型でも、同一等級であれば同じ役割を担う役割等級制度を導入し、これにより、「地域型」からも管理職への登用が可能になりました。
2つ目は、複雑化した業務プロセスを大幅に効率化した抜本改革です。このことにより、たとえば事務を担当していた女性社員は、お客様との接点拡大など、新しい業務に従事する機会が広がりました。
3つ目は、役割変革です。これまで、女性は事務、男性は営業というイメージがありました。抜本改革で整った環境を利用し、男女関係なくそれぞれの強みを生かし、女性も営業などの新たな業務にチャレンジできるようになりました。
当初は、「一般職で入社した私がなんで営業に!?」と思った社員もいたと思いますが、現場のOJTや営業担当者によるマンツーマンの指導等が女性の潜在能力を開花させました。いまでは、多くの女性社員が営業担当者として、フィールドを広げ活躍しています。
―その成果として、2013年には「ダイバーシティ経営企業100選」を受賞、東京海上ホールディングスが「なでしこ銘柄」に選定という評価につながったようですが。
はい。着実に取り組んできたことへの評価であり、たいへん嬉しく思っています。しかし、まだ課題はありますし、道半ばです。
これからも、一人ひとりが自分らしく輝きながらキャリアを研き、お客様のご期待にお応えし続けられるよう、邁進していきたいと思います。
―女性の活躍について、永野社長は何と言っておられますか?
女性の活躍推進については、「期待して、鍛えて、活躍する機会と場を提供する」ことが大事と述べています。
2013年の就任直後にも、方針の柱のひとつに女性の活躍推進を掲げました。全国の部長や支店長を集めた会議でも、「みなさんの次の次の後任には、女性を候補者として考えて欲しい」と言っています。
この社長の思いが、上司や女性社員の背中を押しています。
―女性のキャリアアップのために立ち上げた仕組みがあるそうですが。
女性の活躍推進のための大きな枠組みとして、「きらり☆キャリアアップ応援制度」を設けました。この制度を利用することで、女性社員一人ひとりが自律的にキャリアを構築していく、そのための機会やチャレンジの場を提供しサポートしていこうというものです。
この制度のなかには、「育児との両立を支援する制度」や「柔軟な働き方を支える制度」などもあります。制約を抱えている社員も含め全員が活躍していくことが大切で、そのためには長時間労働ありきではなく、働く場所や働く時間などにおいても、柔軟な対応ができる環境づくりを進めていきたいと思います。
―女性社員本人の意識変革にも積極的に取り組んでいるようですが。
今後のキャリアを考える機会を持つ「キャリアビジョン研修」や、組織におけるリーダーシップの発揮方法を学ぶ「リーダーシップ養成塾」など、様々な研修やディスカッションの場を設けています。
研修では、会社からの期待を再認識し、「今後どのように活躍していくか?」「組織に貢献してくか?」など、行動変容への契機となっています。女性の管理職とのディスカッションでは、「自分も管理職を目指してみたい!」「女性管理職のもとで働きたい」など、前向きな意見も出ています。
昨年10月には、女性管理職を紹介する、社内サイトを立ち上げました。「ターニングポイントとなった出来事」「キャリアについて悩んだこと」「担当者への応援メッセージ」などを掲載しており、キャリアを考える上でのヒントや気づきとなっています。
―特に管理職を対象に取り組んでいることは?
マネジメント力向上のため、新任の部長や支店長には、社外講師によるダイバーシティ研修を行っています。「女性には荷が重いかもしれない」「厳しすぎるかもしれない」などの憂慮は、逆に部下の女性の成長機会を逸することにもなりかねません。
また、「自信がないから」「経験がないから」と、その先に進めない女性に対しても、意欲や発意を引き出すことも必要ですので、マネジメント力を向上するために実施しています。
―女性の管理職について、数値目標を開示していない理由は?
数字ありきで、数字だけが一人歩きすることがないように、また管理職を輩出することだけが目的ではないからです。準管理職の層や、また、それに続く層の厚みを増していくことが重要と考えています。
「女性の活躍推進」と言っているうちはまだダメで、女性が活躍することが当たり前になることを、意識して取り組んでいきたいと思います。
―貴社の今後の目標について、お教えください。
お客様や社会・地域に安心と安全をお届けし続け、「東京海上日動があってよかった」と言っていただける、100年先もそういう企業であることです。
―その目標に向けて小瀬村さんがやりたいことは何ですか?
会社の未来は、社員一人ひとりの行動の積み重ねによって、今も築かれています。その社員が、生き生きと働くため、ダイバーシティの推進に取り組んでいきたいと思います。
週刊「世界と日本」2015年2月16日 第2047号より