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    ダイバーシティ『女性躍進の現在と今後』

    大阪ガス(株)人事部
    ダイバーシティ推進チーム 副課長

    伊藤 郁恵 氏

    大阪ガス(株)では、20年以上前から女性活躍推進の土壌づくりが始まっていた。その背景には、エネルギーの自由化による競争の激化をはじめとした、急激な事業環境の変化への対応、事業領域の拡大への意気込みが見られる。ダイバーシティ推進の中核となって活躍されている伊藤氏に話しを伺った。


    女性の活躍推進に「3つの"き"」

     ―貴社がダイバーシティに積極的に取り組んでいる意図をお教えください。

     中期経営計画にも明示していますが、グローバル化を含めた事業領域の拡大と、本業におけるエネルギー自由化という経営環境の激変を控えていることから、変化に対応する力を備えた企業グループになろうという考えが基本にあります。そのため、人材の多様化が必要であり、これから国内の労働人口が減少していくなかで、女性の戦力化は急務であると方針を定めました。


     ―平成25年度、26年度に連続で「なでしこ銘柄」選定、また平成26年度「ダイバーシティ経営企業100選」に初選出。その理由は何と思われますか。

     前者の「なでしこ銘柄」については、2014年3月の中期経営計画発表の中で、「大阪ガスグループダイバーシティ推進方針」を公表し、その中で女性活躍の数値目標を公に掲げました。また、ダイバーシティ推進と、スマートワーク(生産性向上の取組)を両輪で進めていくことを宣言しました。こうしたトップのコミットメントが評価されたのではないかと思っています。

     後者については、環境整備への取り組みの結果、出産・育児に伴う女性の自己都合退職による、人材流出リスクを回避できるようになったこと。従来、男性だけで構成されていた職場にも、90年代初頭以降は女性を積極的に配属し、女性管理者も輩出されるようになったことなど、長年の継続的な取り組みが評価されたのではないかと思っています。


     ―13年4月には、「ダイバーシティ推進チーム」を立ち上げられましたが、その取り組みの第一歩は?

     女性総合職を対象にした面談の実施です。

     本人たちの声に耳を傾けることを意識しました。個別面談を重ねた結果、出産や育児の問題よりも、むしろ、入社後早い段階で良い業務経験を積み、仕事の面白さに目覚めて活躍し続ける意欲と覚悟ができたか、また、恒常的な長時間労働に陥ることなく自律的に業務をコントロールできているかなどが、その後のキャリア形成に及ぼす影響が大きいことがわかりました。


     ―その他に実施・計画している活動は?

     ライフイベントを控えた若手女性総合職を対象に、キャリア意識の醸成と社内人脈形成を目的に「メンター制度」を導入しました。今年度は、中堅の管理職一歩手前の層を対象に拡大する予定です。

     この他、女性活躍がテーマの社外の異業種交流会・研修・セミナー等に社員を派遣し、女性のキャリアのロールモデルに幅広く触れる機会を用意しています。また、社内SNSを利用した掲示板を整備し、業務外での接点機会が少ない女性社員間のネットワーク形成を支援しています。

     管理職研修としては「期待を伝える・機会を与える・仕事で鍛える『3つのき』」を女性育成のキーワードとしてe―ラーニングとワークショップを管理監督者全員に実施し、意識啓発を図っています。また、メールニュースや社内イントラネットを通じて、社内のイクボス(社員の育児参加に理解のある上司)の動画や他社事例などを配信しています。


     ―意識・風土改革のための実施内容をお聞かせください。

     13年度から「スマートワーク推進活動」として、生産性向上と長時間労働低減のために様々な取り組みをしています。たとえばWEB会議・社内SNSを活用した会議の効率的運営・電子ファイルの共有化・リモートアクセスの促進など、IT基盤の利用を奨励しています。

     また、管理職の業務目標に部下の有休取得促進をはじめとしたスマートワーク関連の項目を設定してもらい、それぞれの職場での取り組みを推進しています。

     15年4月から、旧姓等を通称(社内呼称)として使用することを認め、ライフイベントを乗り越えて働き続ける女性社員を後押しようと考えています。


     ―ダイバーシティ推進に対する社内の意見・感想などをお教えください。

     「ダイバーシティ推進方針」を打ち出したことで、経営幹部層では概ね、「今、取り組まなければいけない経営課題」の一つという認識にはなったと考えています。管理職層についても、全管理職対象のダイバーシティ研修や、新任管理職研修などの機会を通じて、理解は進んできています。特にメンターを経験した管理職からは、取り組みの重要性を再認識したという声が多くありました。

     一方、女性社員、特にライフイベントを経験していない若手女性からは、男女差のない配属、登用などの現状に不満はなく「なぜ自分が活躍支援をしてもらわないといけないのか?」という疑問も聞かれ、丁寧に進めていく必要があると感じています。


     ―ダイバーシティ推進の結果、貴社の事業内容および発展に寄与した、と思われることをお教えください。

     長年の実績を積み上げている家庭向けのガス機器開発では、生活者視点のアイディアが活用されています。

     また、かつては男性のみであった製造オペレーションや緊急通報受付の業務でも、女性の活躍が拡大しており、保安の中枢を担う組織においても、初の女性リーダー職を昨春登用しました。

     法人営業でも、女性はまだ多くないので、覚えてもらいやすいだけではなく、男性と異なる情報源や視点からの提案が好評です。


     ―今後、女性社員の活躍支援として、掲げる数値目標は?

     総合職採用人数に占める女性比率30%以上の継続や、20年までに女性管理職比率を5%にする、女性役員の登用の早期実現などがあります。

     管理職候補の女性社員の母集団が、現実的にはまだ多くはないことが課題であり、時間のかかる取り組みであると感じています。女性の一層の活躍を推進するために、現場と一体となり、課題をあぶり出し、共に知恵を絞って克服していくなかで成功事例を共有化していきたいと考えています。

    週刊「世界と日本」2015年6月1日 第2054号より

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