内外ニュース懇談会 講演要約
講演
政治家の仕事は勇気と真心を持って真実を語ること
衆議院議員
石破 茂 氏
内外ニュース東京懇談会9月例会は29日、ザ・キャピトルホテル東急で行われた。
元自民党幹事長で衆議院議員の石破茂氏が「当面の内外の諸課題」と題し幅広く熱く語った。
憲法9条2項の問題点
憲法9条2項がある限り、日本は本当に安全保障の土台が脆弱なままになってしまう。憲法9条第1項は、不戦条約の引き写しだが、それほど異論はない。問題は、9条第2項で、「前項の目的を達成するために陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権はこれを認めない」との条文は絶対に改正しなければいけない。
「自衛隊は自衛のための最小限度の実力組織だから、憲法9条2項の『戦力』にはあたらない。従って、自衛隊はここで禁じる『軍隊』ではない」と、私自身、国会で何度も答弁してきた。だが自衛のための最小限度とは何か。必要限度なら質的概念でまだ分かるが、最小限度という量的概念を測る物差しはどこにもなく、恣意的にならざるを得ない。
「交戦権」は、「戦争をする権利」ではなく「戦争におけるルールの総称」を指すこととされているが、「戦争におけるルールはこれを認めない」というのでは意味が通じない。
このような9条2項は全面的に書き直し、「日本国は国家の独立と国際平和のため、陸海空三自衛隊を保持する。日本国民は侵略戦争を永久に行わないことをここに厳粛に宣言する」といった文章にするべきではないか。
文民統制の姿
このように自衛隊は国内法上は「軍隊」ではないが、国際法上は日本国の独立を守る「軍隊」と位置付けられている。警察や海上保安庁もかな適わない比類なき最高の実力組織である。このような実力組織に対し、クーデターなどの事象が起こらないように歯止めをかけるのが文民統制のシステムで、民主主義国では司法、立法、行政の三権それぞれによる統制が講じられるのが通常だ。
軍人は、自国の独立と主権を守るという任務を遂行するため、最高の規律と最高の栄誉を与えなければならないが、今の日本は、命を懸けて国家国民のために戦う自衛官に最大の名誉を与えられるようになっていない。
本当にそれで国を守れるか。軍法会議が必要だと言うとかならず批判されるが、国家の命で戦場において殺傷、破壊行為を行う自衛官が、一般の刑法で裁かれるなどということがあってはならない。そしてそのとき、検察官にも弁護士にも裁判官にも自衛官は1人もいない場において裁かれるのでは、自衛官の人権はそこ損なわれることにならないか。これは最高裁判所を最終審と定める現行憲法においても、一審扱いをすることで可能な措置なのではないか。
「台湾有事は日本有事」という言い方が一種流行っているように思うが、台湾有事、即日本有事とは限らず、極東有事ではあっても日本有事ではない事態も想定しうる。精緻な検証が必要で、その検証は本当に命を懸ける自衛官を交えるべきだ。今でも国会において自衛官が説明をする機会はないが、議員が議会で軍事のプロたる陸海空自衛官に現況を聞かずして、立法による文民統制ができていると言えるのか。私はそれは正しい文民統制の姿ではないと思っている。
台湾有事の事前シミュレーション
もしも台湾が中国に統一されれば、半導体生産を含めてアメリカの戦略に大ダメージを与える。
仮に中国が台湾に侵攻した場合、米軍は在日米軍基地からも発進することになるだろうし、合衆国から台湾防衛に関して在日米軍基地の使用の承認を求める事前協議が日本政府に来るだろう。日米安保条約の意義を考えればこれを断るという選択肢はないが、応じれば中国から日本本土への直接のミサイル攻撃を覚悟しなければならない。シビアな判断を迫られるのは、為政者のみではない。国民も同様だ。
仮に同時並行で、朝鮮半島有事が起こった際には、在日米軍は朝鮮国連軍として動く可能性が高く、朝鮮国連軍地位協定では事前協議を要しないので、朝鮮国連軍としての動きを我が国としてどのように把握するかも課題だ。
日本の抑止力
食料、水、トイレ、ベッド、換気装置が全部備わって初めてシェルターと言える。このシェルター、ウクライナは旧ソ連時代に整備し、韓国のソウルは全国民に対して300%、北欧諸国が80%、アメリカが80%超、ほとんどのNATO諸国も60%超を整備しているが、日本は0・02%と遅れている。
自衛隊の防衛力を強化するため、正面装備を増強し、弾薬・燃料を揃えるのも喫緊の課題だ。それに加えて、ミサイル防衛のさらなる整備をし、重層的に抑止力を強化していくということだ。
核の傘は、どれくらい大きい傘か、いつ差すか、穴は開いてないかを検証しないと、拡大抑止は機能しない。それがニュークリア・シェアリングの本質につながると思っている。
ウクライナ戦争と日露戦争に学ぶ
ロシアのGDPは韓国ほどだが、その継戦能力は、どれほどか。日本と違い、兵器の調達には難渋しない。
ロシアの離婚率は80%近くで平均給与は月7万円。仕事がない人はロシアで大勢いて、いまロシア軍は大幅な給料アップを図っており、ウクライナに行くと平均の5倍の35万円もらえ、兵役を終えて帰国できれば、あらゆる公共サービスがほぼ無料になるという。兵隊の調達も人材にも事欠かないかもしれない。
わが国が国是とする専守防衛は、決して軍事合理性に基づいて導き出された考え方ではない。ウクライナが核を放棄したブダペスト覚書を検証しなければ、ウクライナ戦争を終わらせることはできない。
日露戦争も、あのまま続けていれば、必ず負けていただろう。徹底的に一方が滅びるまでやるとなった際、どれだけの人が死ぬか。我々はどうやって生き延びるかを考えるのが、政治の責任だ。
エネルギー・食料の継戦能力
食料安全保障とは、国民が飢え死にしないカロリーを計算し、米作を基本として仮に6月の田植えが終わり次の収穫まで1年3カ月ある場合に、食料が途絶しないようにするにはどうするかということだ。
エネルギーの8割と食料の6割を輸入に頼る日本がどう生き延びるか、もっと真剣に考えなければならない。この手の話は受けないが、勇気を持って真実を語らなくてはいけない。そして、「あいつの言うことだから聞いてみよう」とどれだけ大勢の人に思っていただけるかが、政治の師の渡辺美智雄先生流に言えば「真心」だと思う。
※講演動画は「内外ニュースチャンネル」でご覧いただけます。(会員専用)
動画 石破茂氏20230929(会員専用) - 内外ニュースチャンネル (naigainews.jp)
講演要約は週刊「世界と日本」NO.2256号に掲載されます。
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