内外ニュース懇談会 講演要約
講演
現下の政治経済・国際情勢をどう見るか
~日本の取るべき道
経済産業大臣
衆議院議員 齋藤 健 氏
内外ニュース東京懇談会9月例会は9日、ザ・キャピトルホテル東急で行われ経済産業大臣・衆議院議員の齋藤健氏が「現下の政治経済・国際情勢をどう見るか~日本の取るべき道」と題し、産業政策や経済政策、GX国債発行、米中関係、書店の魅力などを力強く熱く語った。
自国産業ファーストの時代
私が通産省(経済産業省の前進)に勤務した頃、個別の幼稚産業に多額の政府資金を投入し、成長させるという、いわゆる産業政策は、御法度だった。が、経済産業省(経産省)を辞めて18年が経って大臣として戻ってみると、アメリカも中国もヨーロッパも韓国も台湾も、自国産業ファーストで政府資金を個別の産業に大胆に投入する時代にがらっと変わっていた。2022年8月にアメリカで成立したCHIPS法は、国内の半導体産業復活のため、ほぼ失っていた半導体の製造基盤を設ける強い意志でつくられた。バイデン政権は同法を通じて、今後5年間で約527億ドル(日本円で約7兆から8兆円)の政府資金を半導体産業に補助し、減税や融資も合わせて14兆円投入する時代になった。中国も製造2025で、ヨーロッパや韓国、台湾も自国産業ファーストで同様に産業政策を展開する時代に入った。私は、産業政策の国際競争が始まったと実感し、この時代の変化に日本もきちんと対応しないと日本の産業の将来は危ういと考えている。
半導体王国復権に向けた日本の産業政策
熊本に台湾の半導体メーカーTSMCを誘致し、第1、第2工場併せて1兆2080億円の助成金を提供することになっている。重要な論点になったのは、日本国内で製造できない半導体を国内で製造できるように日本に呼び込むことであった。半導体の供給が断絶することは、日本経済全体に大きな影響を与えることになる。
また、北海道のラピダスプロジェクトは、最先端である2ナノメートルの半導体を製造することを目指しており、AIなどの高度な計算処理を必要とする事業に不可欠な世界最先端ロジック半導体を日本の手で2027年までに量産する体制を構築する計画である。生成AI、電気自動車などの生産が世界で増えれば、先端半導体の需要も激増する。もし、このプロジェクトをやらなければ、世界的に需要が伸びる先端半導体をアメリカ、中国、ヨーロッパ、韓国、台湾に全部取られてしまう。日本は指をくわえて見ているだけでは、産業界の士気にも関わる。やらないリスクもあるのだ。今、経産省の産業政策の一つ一つが、将来の日本の産業界に大きく影響するという緊張感をもっている。
世界初のGX国債発行
GX。これから洋上風力も次世代の太陽光パネルも、需要は間違いなく世界で激増する。重点分野での投資を促進し、社会実装を加速していく。経産省がやることはお金の用意。単にCO2が減少するだけのものに企業は投資しない。洋上風力もコストが高いままでやってもらうには助成が必要。資金調達は、税金ではなく、GX経済移行債という名目で10年間、20兆円の国債を発行し、のちに返還する仕組みを講じている。GXに限定した日本の国債は世界初で、これも経産省の挑戦である。
デフレ脱却して緩やかな経済成長へ
マクロ経済、今ようやく本当に潮目の変化が見えてきたことを実感している。最大の理由は、デフレ脱却である。物価が下がるデフレの局面では投資をしにくい。デフレ脱却を安倍政権以降やってきたが、ようやく軌道に乗り、物価が穏やかに上昇。投資も増えてきた。国内投資は、年間約80兆から90兆円だったのが、30年ぶりに今、100兆円を超えた。
物価が上がると賃金が上がらないと生活が苦しくなる。岸田政権では様々な方策をとり企業に協力もいただき、春闘では30年ぶりに5・1%アップした。あと、生産現場では、物価が上がれば資材が高騰し、価格転嫁できないと行き詰まる。価格転嫁を実現するかが極めて重要な政策になる。
物価が上がり、投資も増え、あとは賃金と転嫁がうまくいけば、再び日本が成長軌道に乗れるところに来た。各種政策を講じてデフレからの完全な脱却と緩やかな経済成長に移行できるか、今が正念場である。
米中間で日本が取るべき4つの戦略
これからの10年を展望すると米中関係が心配である。日本は米中をどう思い、米中対立をどうマネージするかの戦略が重要。私がハーバード大学院で授業を受けた国際政治学者のグレアム・アリソン教授が「世界で覇権国の交代は16回、そのうち12回は戦争になった」と学んだ。残る4回の経験が重要で、うち1回が米ソ冷戦。正面衝突はなかった。「徹底的に軍事力で対抗する」、「アライアンス(国際的な安全保障の仕組み)を作る」、「相手を追い込みすぎない」の3つの戦略を丁寧に長い間続けて、ソ連も冒険主義を起こせないところまで凌いだことで戦争にならなかったと分析する。米中にも有効な方法だ。中国も今、経済成長は著しいが未来永劫ではない。2050年には65歳以上人口が3分の1になる。注目するべきは、習近平さんの年齢(現在71歳)である。もし本当に台湾統一を絶対成し遂げる目標とするならば、80歳で冒険主義に走るのとは考えにくい。これからの日本の役割を考えると、米中の間に立って両者の考えをよく把握した上で「政治家同士が信頼関係に基づいて腹を割って話せるパイプをしっかりと持つ」ことが、4つ目の戦略として大事である。
街の書店を守れ
街の書店が危機的な状況を迎えている。書店の魅力は、何といっても一覧性にありウェブで代替が難しい。予期せぬ一冊との出会いが視野を広げ、その人の人生を変えることさえある。図書館、ネット書店、街の本屋さんの共存が望ましい。
今年3月時点で「書店ゼロ」の自治体は4分の1もあり、そこで生まれた子供は、書店というものを知らずに育つことになりかねない。国力の劣化につながると思い、10年近く前に自民党で支援する議連をつくった。フランスは反アマゾン法という法律で書店を守る取り組みを行う。韓国も危機感を持って様々な対策をして増え始めた。今年3月経産省に書店振興プロジェクトチームを発足させた。まずは問題意識を共有し、街の本屋さん、ひいては日本の文化を守りたいという気持ちを多くの人に持ってもらい、力をあわせて未来を切り開いていきたい。
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動画 齋藤氏202409(会員専用) - 内外ニュースチャンネル (naigainews.jp)
講演要約は週刊「世界と日本」NO.2278号に掲載されます。
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